乾燥BCG
林 武夫著、特任指導嘱託平野林・嘱託柳澤謙
BCGワクチンに関する研究
第二編免疫試験

実験動物は、体重300g(30㎏)前後の雄のモルモット(学童)で体表面に米粒大のリンパ腺が触知せず、ツベルクリン反応も陰性で、結核に罹患していないことを確認したもの。
乾燥ワクチンは、超音波(560キロサイクル)で10分間処理された後、凍結真空乾燥したものを左下腹部脱毛の部皮内に正確に0.1cc(BCG1mg)を接種した。
乾燥ワクチンは、10℃内外で保存したが、1年保存のものは、氷室の故障もあり、20℃以上になったことが数回あった。
実験の対象者は、125人であった。
実験動物を5群に分け、第1群には調整当日の非乾燥BCGを、第2群には乾燥後3ヶ月保存ワクチンを、第3群には乾燥後6ヶ月保存ワクチンを、第4群には乾燥後1ヶ年保存ワクチンをそれぞれ接種し、第5群はBCGを接種しない対照群とした。
実験方法としては、乾燥ワクチンは学童の左下腹部皮内に1㎎を接種し、10週後強毒の人型結核菌(フランクフルト株)を右下腹部皮下に0.01㎎注射した。
感染後10週後に一斉に剖検した。対照群はBCGを接種しないで人型結核菌を感染させ10週で剖検した。
乾燥ワクチンの接種局所は、24時間後ほとんど全例に小豆大ないし大豆大の硬結をともなう5~15㎜の発赤がみられた。
一部に膿疱を伴い破れ、あるいは潰瘍となり、痂皮形成をみるが、2から3週後には瘢痕治癒の傾向を示し、4週後にはほとんど全治した。
乾燥ワクチンの実験結果だが、ワクチンの保存はきちんと管理さえすれば、1年保存のものは調整当日のワクチンと遜色ない効果があると結論づけている。
またBCGの補給に光明をえたとも書かれていた。
佐藤秀三の「佐藤のヒスとグラム法」はあくまでもモルモットにけるBCGの結核予防効果を見るものであったことは前にも話した通りである。
実験動物(人)用の「佐藤のヒストグラム法」(変法)があることは、既に紹介したが、この論文にもその佐藤変法が解りやすく、解説されていた。 内臓結核の観察方法は変化なし(一)、少数(1+)、少々多数(2+) 多数(3+)、甚だ多数(4+)と変化はなかった。
リンパ腺の観察方法は、モルモットの場合では左右の膝窩腺、鼠蹊腺、腋窩腺および後胸骨腺、後腹膜腺、門脈腺、気管支腺の10ヶ所の結核性変化をみていたが、今回の論文ではこれに「腸間膜」も加わっていた。
リンパ腺腫脹度分類は、小豆大におよばないもの(-)、小豆大(1+)、大豆大(2+)、えんどう豆大(3+)、空豆大あるいはそれ以上(4+)という解剖所見でも人間用の分類法であった。
第1群では22人、第2群には25人、第3群には24人、第4群には20人、第5群には24人が使用されていた。合計は115人で10人が行方不明になっていた。
乾燥ワクチンは今の乾燥凍結法とほぼ同じであり、回収率は100%迄と行かなくとも力価はほぼ1㎎になるものができるはずである。
これで益子義教、小林武夫の二論文で使用された実験動物(人)は686人にのぼった。
BCG接種実験並びに人型結核菌投与実験でどれほどの実験動物(人)が死亡したが正確には解らないが、結核予防研究のために使われた実験動物(人)は文献的にはこれで6269人になった。